知脈

差異の差異

情報の定義the difference that makes a difference差異を生む差異

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精神と自然』で「差異の差異」を読む

グレゴリー・ベイトソン(佐藤良明訳)

本書でベイトソンは、精神(Mind)と自然(Nature)を結ぶ基礎概念として「差異」を据える。クレアチュラ(精神の領域)はプレロム(物理の領域)と異なり、力ではなく差異によって動く世界だと論じる。

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石が坂を転がるのは重力という力のせいだが、なぜ人は誰かの声のわずかな震えを聞き取っただけで態度を一変させるのか。そこに働いているのは力ではない。グレゴリー・ベイトソンは、情報の正体を「差異を生む差異(a difference that makes a difference)」だと定義した。世界には無数の違いが存在するが、そのほとんどは誰にとっても何の意味も持たない。ある違いが観察者やシステムの内側で別の違いを引き起こしたとき、初めてそれは「情報」と呼べるものになる。この一見単純な言い換えが、物理的な自然の法則と精神の働きをひとつの言葉で語ろうとする精神と自然全体の出発点になっている。

力の因果と差異の因果

ニュートン力学が扱う世界では、原因の大きさと結果の大きさはおおむね比例する。強く押せば強く動き、力を加えなければ何も起こらない。だがベイトソンが注目したのは、そうした「力」の因果関係だけでは説明のつかない出来事だった。地図の上の一本の線、電報のなかの一語、表情のわずかな変化——これらは物理的なエネルギー量としてはごくわずかでも、受け取る側の行動を大きく変えることがある。差異それ自体には質量もエネルギーもなく、単独では何も引き起こさない。差異が効果を持つのは、それを検知し別の差異へと変換していく回路——生物の神経系や、体温や姿勢を一定に保とうとする調整の仕組みなど——が受け手の側に備わっているときだけだ。逆に言えば、同じ違いであっても繰り返されて予測可能になれば感覚は慣れ、もはや差異として登録されなくなる。情報とは世界の物理的な性質ではなく、観察者との関係のなかで初めて生じるというエピステモロジー上の主張が、この定義の核心にある。

クレアチュラを動かす原理

本書でベイトソンは、この「差異」を精神(Mind)と自然(Nature)を結ぶ基礎概念として据える。物理的な力によって動く世界を彼はクレアチュラとプレロムのうちプレロムと呼び、衝突や重力がそのまま結果の大きさを決める領域とした。これに対し、意味や情報が力ではなく差異によって伝わる領域をクレアチュラと呼ぶ。クレアチュラの世界では、ささやかな引き金が大きな反応を生むことも、強い刺激がまったく反応を生まないこともある——原因と結果の大きさが釣り合うという物理法則が、そのままでは通用しない世界である。差異の差異という定義は、この二つの領域がなぜまったく異なる論理で動くのかを説明する足場になっているとベイトソンは論じる。

マインドを定義し、パターンへとつながる

差異に反応し、その反応がさらに別の差異を生み出していく回路を持つこと——これはベイトソンが挙げるマインドの基準の一つに直結するとされる。精神とは、力によってではなく差異によって駆動されるシステムだと言い換えることもできるだろう。ベイトソンは同様の定式化を他の論考でも繰り返し用いていたとされ、精神と自然はその集大成として、差異という概念を生物の進化や学習、社会関係にまで拡張していく。そして、無数の差異が時間のなかで反復し互いに関係し合うことで浮かび上がる網の目こそ、ベイトソンが生涯をかけて探し続けたパターンをつなぐパターンにほかならない。個々の差異はそれ自体では一瞬の出来事にすぎないが、その連鎖のかたちを追うことによってはじめて、精神と自然を貫く共通の秩序が見えてくる。

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精神と自然
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グレゴリー・ベイトソン(佐藤良明訳)

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本書でベイトソンは、精神(Mind)と自然(Nature)を結ぶ基礎概念として「差異」を据える。クレアチュラ(精神の領域)はプレロム(物理の領域)と異なり、力ではなく差異によって動く世界だと論じる。