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確率論的プロセスと選択

stochastic processランダム性と選択試行錯誤エピジェネシス

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精神と自然』で「確率論的プロセスと選択」を読む

グレゴリー・ベイトソン(佐藤良明訳)

ベイトソンは進化・学習・思考を同型の確率論的プロセスとして統一的に説明しようとする。本書の重要な試みのひとつで、ダーウィン進化論を精神現象に拡張する理論的根拠となる。

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進化論を精神現象へ拡張する試み

なぜ生物は環境に適応した姿へと変化し、なぜ人は経験から学ぶことができるのか。グレゴリー・ベイトソンは確率論的プロセスと選択という枠組みでこの問いに答えようとした。進化も学習も思考も、「ランダムな変異の生成」と「その中から一部だけを選び取って保存する選択」という同一の論理構造を持つ、という考え方である。ランダムネスは単なる無秩序ではなく、新しさが生まれるための資源として機能する。選択だけでは新しい情報は決して生まれず、変異だけでは秩序は決して残らない。両者が組み合わさって初めて、適応的な変化は蓄積していく。

精神と自然でベイトソンが取り組んだ課題のひとつは、ダーウィンの自然選択説を遺伝の領域だけに閉じ込めず、学習や思考にまで拡張することだった。遺伝的変異が世代を超えて生き残るかどうかを選択が決めるように、個体の中で生まれる無数の思考や行動の試みも、環境や文脈という選択圧によってふるいにかけられ、有効なものだけが残っていく。学習のレベルが段階を持つのも、それぞれの段階でランダムな候補を出しては結果を見て選び直すという、同じ手続きの試行錯誤が繰り返されているからだとベイトソンは考えた。進化と学習を同じ言葉で語れるという発想は突飛に見えるが、両者が共有するのは具体的なメカニズムではなく、変異と選択という抽象的な論理形式なのだと彼は論じる。

エピジェネシスという媒介項

別名のひとつであるエピジェネシス(後成)は、この論理をつなぐ蝶番になる。受精卵が特定の器官へと分化していく発生の過程は、あらかじめ設計図通りに進むのではなく、細胞群がその都度置かれた局所的な条件のもとでいくつかの発生経路の可能性から選び取られていく、半ば偶然に開かれた過程だと考えられる。ベイトソンはここに、世代を超える遅い確率過程である進化と、個体の生涯の中で完結する速い確率過程である学習との、中間に位置する現象を見出した。発生・学習・進化を入れ子になった同型の確率過程として並べることで、生命現象全体を貫く単一の説明原理を立てようとしたのである。

ランダムネスを飼いならす

確率論的プロセスと選択という発想の核心は、ランダムネスの評価の仕方にある。純粋な無作為さだけが続けば結果は雑音にしかならず、逆に選択だけが働いて変異の供給が止まれば、系はやがて硬直し新しい状況に対応できなくなる。意味を持つ新しい差異の差異は、あらかじめ決まった設計図から出てくるのではなく、ランダムな試行が生み出す予測不能な揺らぎの中からしか立ち現れない。選択は、その揺らぎの中のどれが「使える違い」であるかを事後的にふるい分ける役割を担う。この見立ては、後の複雑系科学が自己組織化に見出した秩序の源泉と隣接する問いを、選択という切り口から先取りしていたとも読める。

思考というもうひとつの確率過程

ベイトソンの野心は、この論理を精神そのものの働きにまで及ぼす点にあった。人が新しい考えを思いつく瞬間も、頭の中で無数の連想やイメージがなかば無作為に浮かんでは消え、そのうち文脈に合うものだけが意識に定着するという、確率論的プロセスと選択の一事例だと彼は捉える。この見方はサイバネティクスが明らかにしたフィードバックの仕組みとも重なる。選択の基準そのものが、試行の結果を受け取ることで少しずつ調整されていくからだ。進化・発生・学習・思考を貫くこの一本の論理は、本書全体を支える統一的な視座のひとつになっている。

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精神と自然
精神と自然

グレゴリー・ベイトソン(佐藤良明訳)

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ベイトソンは進化・学習・思考を同型の確率論的プロセスとして統一的に説明しようとする。本書の重要な試みのひとつで、ダーウィン進化論を精神現象に拡張する理論的根拠となる。