共進化
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この概念を本でたどる
『利己的な遺伝子の拡張された表現型』で「共進化」を読む
リチャード・ドーキンス
ビーバーのダム・クモの巣・寄生虫による宿主行動変容という共進化的事例
この本とのつながりを見るなぜ共進化を理解することが重要か
進化は孤立して起きるのではない。捕食者が進化すれば被食者も進化する。寄生者が進化すれば宿主も進化する。花が進化すれば受粉者も進化する。この相互依存の進化を「共進化(Coevolution)」と呼ぶ。複雑系の研究において共進化は、単独の系の最適化では理解できない、相互作用する系の複雑なダイナミクスの核心概念だ。
共進化の核心:赤の女王仮説
共進化の最も有名な比喩は「赤の女王仮説(Red Queen Hypothesis)」だ。ルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」に登場する赤の女王は「同じ場所にとどまるためにも、できる限り速く走り続けなければならない」と言う。
生物の共進化でも同じことが起きる。捕食者が速く走れるように進化すれば、被食者も同じだけ速く走れるように進化しないと捕食圧が上がる。被食者が防御を高めれば、捕食者も攻撃力を高める。この「軍拡競争(arms race)」は相互の「適応」によって延々と続く。絶対的な改善(捕食者が絶対的に速くなる)ではなく相対的な維持(相対的な立場が変わらない)が共進化の本質だ。
隣接概念との比較
適応度地形との関係は重要だ。共進化では、種Aの適応度地形が種Bの進化によって変化し、種Bの適応度地形が種Aの進化によって変化する。つまり適応度地形自体が動的に変化する「動く地形(fitness landscape)」を想定する必要がある。
非線形性との関係は本質的だ。共進化は非線形な相互作用の典型例だ。種Aの変化が種Bへの影響を引き起こし、種Bの変化が種Aへの影響を引き起こす正のフィードバックループが、予測困難な複雑なダイナミクスを生み出す。
遺伝的アルゴリズムと共進化の関係では、複数の集団が互いに相手の適応度を変えるような「共進化的GA(Co-evolutionary GA)」が開発されている。チェスAI・囲碁AIの自己対局学習(AlphaGo Zero)は共進化的な学習の一形態だ。
誤解と修正
「共進化は常に対立(競争)を含む」という誤解がある。共進化は捕食者-被食者のような対立だけでなく、互恵的(mutualistic)な共進化も含む。花と受粉者(ミツバチ)は互いの進化を促進し合う互恵的な共進化の例だ。花は蜜を提供して受粉者を引き付け、受粉者は花粉を運ぶ。この関係が双方の進化を方向づける。
「共進化には勝者と敗者がある」という誤解も見られる。赤の女王仮説が示すように、共進化では「相対的な位置が変わらない」ことが多い。双方が進化し続けるが、相対的な力関係は維持される。これは「走り続けることで同じ場所にいる」という逆説的な均衡だ。
実践的含意
共進化の概念は技術・ビジネス・社会変革の理解にも応用できる。
技術の共進化として、スマートフォンの普及(進化)がアプリエコシステムの進化を促し、アプリエコシステムの充実がスマートフォン需要を高めるという相互進化が起きた。プラットフォームと利用者・競合他社・規制当局の間の共進化は、現代のビジネス環境の基本的なダイナミクスだ。
エージェントベースモデルは共進化のシミュレーションに特に適している。複数のエージェント集団が互いの戦略を読んで適応する複雑なダイナミクスを、計算機上で実験できる。
概念ネットワーク
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この概念を扱う本(5冊)
リチャード・ドーキンス
ビーバーのダム・クモの巣・寄生虫による宿主行動変容という共進化的事例
スチュアート・カウフマン
相互作用する種どうしの適応度地形が結合し、互いの適応的な動きで地形そのものが変形する「踊る地形」としてモデル化される。全員が走り続けても相対的な位置が変わらない領域が現れる条件を、結合の強さの関数として示す。
スーザン・ブラックモア
遺伝子とミームという二つの複製子が互いの選択圧になる過程として、人間の脳の巨大化と言語の成立を説明する。ミーム淘汰が遺伝子淘汰の方向を変えるという、生物以外の複製子を巻き込んだ共進化の議論。
グレゴリー・ベイトソン(佐藤良明訳)
用語集に一項を立て、種Aの変化が種Bの選択の舞台を用意し、その逆もまた起きる確率過程として定義する。メッセージとそれを読む技能が対になって進化するという、情報の側から共進化を捉え直す議論が印象に残る。