文法性と意味の独立
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この概念を本でたどる
『統辞構造論』で「文法性と意味の独立」を読む
ノーム・チョムスキー(福井直樹 / 辻子美保子訳)
本書は『無色の緑の観念が猛烈に眠る』という、無意味だが文法的な文と、同じ語をでたらめに並べた非文法的な文とを対比させ、文法性の判断が意味的な有意味性から独立に成立することを具体的に示す。
この本とのつながりを見る文法性と意味の独立とは、ある文が文法的に成り立っているかどうかの判定は、その文が意味を成すかどうかとも、実際にどれだけ話された経験があるかとも別の問題として下せるという考え方である。ノーム・チョムスキーが統辞構造論で提示した一つの思考実験に由来し、統語構造の研究(統語論)を意味論から切り離し自律的な研究対象として扱うための、代表的な論拠として用いられてきた。今日では生成文法という枠組み全体の出発点に位置づけられる議論として、言語学の教科書だけでなく人工知能・自然言語処理の分野でも繰り返し引用される。
「無色の緑の観念」という思考実験
チョムスキーが挙げたのは"Colorless green ideas sleep furiously"(無色の緑の観念が猛烈に眠る)という一文である。色を持たないはずの「無色」でありながら「緑」でもあること、観念という抽象物に色がついていること、そして観念が「眠り」、しかもそれを「猛烈に」行うこと、そのいずれもが意味的には成り立たない。ところがチョムスキーは、この文とまったく同じ単語を逆順に並べ替えた"Furiously sleep ideas green colorless"を対比させる。英語話者に判断を求めると、前者は「意味不明だが文法的には正しい文」、後者は「意味不明な上に文法的にも誤っている文」だという評価で、英語話者の直観はおおむね一致するとされる。
頻度でも意味でもなく構造で決まる
さらにチョムスキーは、この2文もその構成部分となる語の並びも、それ以前に実際の英語の中で発話された例はおそらく存在しないと指摘する。当時広まっていた、単語の出現頻度や連鎖確率から文の自然さを予測しようとする統計的な言語モデルでは、この2文は「英語から等しく縁遠い」文としてしか扱えず、両者を区別する手がかりは原理上得られない。にもかかわらず母語話者は瞬時に一方を文法的、他方を非文法的と判定できる。この対比は、単語の連鎖確率だけに基づく統計モデルへの反証として使われ、同じ『統辞構造論』の中で展開される有限状態文法の限界の議論とも問題意識を共有している。
統語論の自律性という論拠へ
文法性の判定が意味の有無からも使用頻度からも独立に下せるのなら、統語規則の体系は意味を一切参照せずに記述できることになる。チョムスキーはここから、文法性は話者が内在化した規則の体系にもとづくと論じ、これは後に言語能力として理論化される発想の萌芽となった。実際に話されたことば(パロール)の集積ではなく、その背後にある規則の体系を研究対象とする発想は、ラング/パロールの区分とも重なるとされる。こうした考え方は「統語論の自律性」と呼ばれ、統語論と意味論を独立した研究領域として切り分ける、生成文法の方法論を支える柱の一つとなった。
今日への影響
「無色の緑の観念が猛烈に眠る」は言語学史上もっとも有名な例文の一つとなり、意味論と統語論の違いを説明する定番の教材であり続けている。統計的な言語モデルがこの文を「意味は成り立たないが文法的には自然」だと判定できるかどうかは、モデルが人間の文法判断にどこまで近づけているかを測る一種の試金石として、自然言語処理の分野でも今なお言及されることがある。
この概念を扱う本
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この概念を扱う本(1冊)
ノーム・チョムスキー(福井直樹 / 辻子美保子訳)
本書は『無色の緑の観念が猛烈に眠る』という、無意味だが文法的な文と、同じ語をでたらめに並べた非文法的な文とを対比させ、文法性の判断が意味的な有意味性から独立に成立することを具体的に示す。