言語使用の創造性
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この概念を本でたどる
『統辞構造論』で「言語使用の創造性」を読む
ノーム・チョムスキー(福井直樹 / 辻子美保子訳)
本書は文法を有限の規則から可算無限の文の集合を生成する数学的装置として定式化することで、この創造的な言語使用をいかに説明するかという問いに取り組み、生成文法という研究プログラムの基本動機として提示する。
この本とのつながりを見る言語使用の創造性(英語では creative aspect of language use)とは、人間の言語使用が、有限個の規則と語彙をもとに、これまで一度も発話・聴取されたことのない文を無限に生み出し理解できるという性質を指す。「言語の生産性」「無限の文の生成」「discrete infinity(離散的無限性)」などとも呼ばれ、生成文法においては言語能力の理論が説明すべき最も基本的な事実の一つとされる。日常の会話は決まり文句の反復ではなく、その場その場で初めての文が組み立てられ理解されている――ありふれていながら説明の難しいこの事実が、この概念の出発点になっている。
「創造的」とは何を意味するか
ここでの「創造的」は、芸術的な独創性を指すのではない。使える語彙も文法規則の数も有限でありながら、規則を繰り返し適用することで文の長さに理論上の上限がなくなり、可能な文の集合が可算無限になるという構造的な性質を指す。たとえば「AがBと言った」という文の中に、さらに「BがCと言った」という文を埋め込み、その中にまた別の文を埋め込む、という操作に原理的な歯止めはない。話者が生涯に触れる実際の発話の数はどれほど多くても有限にとどまるが、人は初めて耳にする文でも難なく理解し、自らも作り出す。この落差をどう埋めるかが、言語理論の中心課題に据えられることになった。
フンボルトからデカルトへ遡る系譜
「有限の手段を無限に用いる」という定式化は、19世紀の言語学者ヴィルヘルム・フォン・フンボルトの言葉にまで遡るとされる。ノーム・チョムスキーは後年の著作でこの発想の系譜をさらに遡り、17世紀の哲学者ルネ・デカルトや当時の理性主義的文法家たちが、人間の言語使用は特定の刺激や状況に縛られず新しい場面に応じて無限に適応できる点で、動物の伝達行動や機械の反応とは本質的に異なると見抜いていたと論じた。言語使用は単なる刺激反応の連鎖ではないというこの直観が、20世紀の生成文法に引き継がれたとされる。
『統辞構造論』が与えた数学的な形
1957年刊行の統辞構造論でチョムスキーは、この直観を検証可能な形に定式化した。言語を、有限個の要素から作られる有限の長さの文からなる集合と定義し、文法を、その言語に属する文をすべて過不足なく生成する装置として位置づけたのである。あわせて、隣接する語の連鎖確率だけに頼る仕組みには、文をいくつも埋め込んだ構造を原理的に生成できないという有限状態文法の限界があることを示し、句構造規則や変換規則を備えたより強力な体系の必要性を説いた。核文という基本的な文の集合を土台に据える構想も、この枠組みの一部として提示されている。
生成文法という研究プログラムへ
こうして言語使用の創造性という一つの哲学的直観は、生成文法という研究プログラム全体の存在理由へと組み替えられた。話者が実際に口にした発話の集まりを超えて、無限の文を生成しうる潜在的な知識そのものを理論の対象に据えるという方法論の転換であり、この言語能力という捉え方は、ソシュールのラング/パロールの区別としばしば並べて語られる。有限の規則から無限の系列を生成・判定するという発想は、有限の手続きで無限の可能性を扱うチューリングマシンとも通じるところがあると指摘される。有限の生得的な仕組みから無限の言語運用が立ち上がるという見立ては、統語理論の枠組みが変化した後も、生成文法が説明すべき中心的な事実であり続けている。
この概念を扱う本
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この概念を扱う本(1冊)
ノーム・チョムスキー(福井直樹 / 辻子美保子訳)
本書は文法を有限の規則から可算無限の文の集合を生成する数学的装置として定式化することで、この創造的な言語使用をいかに説明するかという問いに取り組み、生成文法という研究プログラムの基本動機として提示する。