文法の単純性
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この概念を本でたどる
『統辞構造論』で「文法の単純性」を読む
ノーム・チョムスキー(福井直樹 / 辻子美保子訳)
本書では、句構造規則に変換規則を加えることで、個別に記述すれば複雑になる関連文同士の規則群を全体としてより単純に記述できることを示す論拠として単純性が繰り返し用いられ、変換文法の採用を動機づける。
この本とのつながりを見る文法の単純性(simplicity metric)とは、同一の言語データに複数の文法が同じように適合しうる場合に、より少ない規則、あるいはより単純な規則体系で記述できる文法を理論的に優れたものとして選ぶ基準である。「評価手続き(evaluation procedure)」や単純性の基準とも呼ばれ、文法理論の選択を研究者ごとの直感にではなく、規則の数や形式という客観的な尺度に基づかせようとする試みだったとされる。ノーム・チョムスキーは『統辞構造論』において、この基準を句構造規則に変換規則を組み込む根拠として繰り返し用いている。
「発見の手続き」から「評価の手続き」へ
20世紀半ばのアメリカ構造言語学では、大量の発話資料を機械的な手順で分析していけば、いずれ「正しい文法」そのものに到達できるはずだという「発見の手続き」の理想が広く共有されていたとされる。同書でチョムスキーが指摘したのは、そうした万能の発見手順を求めること自体、現実的な目標たり得ないという点だった。かわりに言語理論に求めるべきは「評価の手続き」、すなわち同じ言語データに適合する複数の文法案が与えられたとき、どちらがより優れているかを判定できる基準だと論じた。この判定基準として持ち出されたのが単純性であり、文法理論という営みを勘や好みではなく形式的に比較可能な作業として位置づけ直す狙いがあった。
規則の数をどう数えるか
単純性は単なる印象ではなく、規則を記述する記法の上で測られる。似た構造を持つ複数の規則をかっこや波かっこの記法でひとつにまとめられるなら、そのぶん規則の総数や記号の数は減り、文法は単純になったとみなされる。逆に、まとめられずに同じような規則を何度も書き下さなければならないとすれば、その文法は複雑だと判定される。同書では、この考え方が単なる帳尻合わせではなく、文どうしの本質的な関連性を捉えているかどうかの指標として扱われている。
変換規則を動機づける論拠
単純性の基準が最も具体的な力を発揮するのは、能動文と受動文、平叙文と疑問文、肯定文と否定文のように互いに深く関連する文の対をどう記述するかという場面である。これらを独立した句構造規則だけで書き分けようとすると、主語・目的語の組み合わせに関する制約情報をほとんど同じ内容のまま重複して書かなければならず、規則体系全体が肥大化する。同書は、共通の核文から出発して変換規則によって受動文や疑問文を導く方が規則の総数も複雑さも小さく済むことを示し、この比較そのものを変換規則採用の論拠とした。助動詞の連なりを生成する規則群についても、同様の単純化が成り立つとされる。
単純性が問うもの
単純性という基準を持ち込む試みは、生成文法という理論全体を、研究者ごとの勘の集積ではなく検証可能な体系として組み立てようとする野心の表れだったと評される。もっとも、何を数えれば「単純」とみなすかは規則の書き方や記法の選択に依存するため、基準そのものが恣意的になりうるという批判も後に寄せられた。それでも、複数の文法理論を比較し選択するための客観的な物差しを言語学に持ち込もうとした点で、単純性は生成文法の方法論を特徴づける基準の一つであり続けている。
この概念を扱う本
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この概念を扱う本(1冊)
ノーム・チョムスキー(福井直樹 / 辻子美保子訳)
本書では、句構造規則に変換規則を加えることで、個別に記述すれば複雑になる関連文同士の規則群を全体としてより単純に記述できることを示す論拠として単純性が繰り返し用いられ、変換文法の採用を動機づける。