知脈

ポスト構造主義

post-structuralism

構造主義は「構造がすべてを決める」と言った。ならば構造は変えられないのか。ポスト構造主義は、構造主義の内部から発生した批判的思想運動だ。フーコー、デリダ、ドゥルーズ、ラカン——1960〜70年代のパリを中心に、固定した構造への異議申し立てが起きた。「68年5月」の政治的爆発と交差しながら、この思想運動は哲学・文学批評・社会理論・フェミニズムを根本から変えた。

構造主義からの出発

構造主義はソシュールの言語学から始まった。意味は単語そのものにあるのではなく、他の単語との「差異のシステム」の中に宿る。「犬」という語は、「猫」「狼」「人」との差異によって意味を持つ。この洞察は文化人類学(レヴィ=ストロース)、精神分析(ラカン)、マルクス主義(アルチュセール)に応用され、表面的な現象の背後に普遍的構造を読み取る手法となった。しかしポスト構造主義者たちは問うた——その「構造」自体は誰が決めたのか?構造は中立ではなく、特定の権力関係を自然化しているのではないか?

フーコーとデリダ——異なる批判の矢

構造と力で浅田彰が紹介したように、ポスト構造主義は一枚岩ではない。フーコーは「知と権力」の問題に向かった——パノプティコンに象徴される、知識が権力として機能するメカニズムを解剖した。精神医学・医学・刑罰——これらの「人間科学」が、正常と異常を区別することで主体を生産すると論じた。デリダは「脱構築」という戦略で、テキストの意味が確定しないことを示した。差延(différance)という概念で、意味は常に延期され散逸する——中心や原型を求める構造主義の欲望を、その論理の内側から崩す。ドゥルーズはリゾームという概念で構造のツリー型階層性を批判した。

「ポスト」が開く空間

ポスト構造主義の「ポスト」は「後」であると同時に「超越」を意味する。構造主義を否定するのではなく、その前提を問い続ける姿勢だ。固定した意味、安定した主体、普遍的な価値——これらを「自明」とする思想への持続的な疑問。この思想は文学批評、社会学、フェミニズム、ポストコロニアル研究に広く浸透し、現代の人文学の基盤を形成している。批判としては、「何でも脱構築できると言えば何も言わないのと同じ」という実践的無力さの指摘がある。しかしポスト構造主義の意義は、固定した「正解」を疑う問いの姿勢を思想の習慣として確立したことにある。構造主義が「地図を書いた」なら、ポスト構造主義は「地図の外縁」を問い続ける。

ポスト構造主義の現在:何が残り、何が問われ続けるか

ポスト構造主義は1960〜70年代のフランスに花開き、文学批評・哲学・社会理論・カルチュラル・スタディーズに広範な影響を与えた。しかしその後、様々な批判にもさらされてきた。「テキストの外には何もない」(デリダ)というテーゼは、現実や物質的条件を無視した観念論的傾向として批判された。また言語決定論の傾向は、人種・ジェンダー・階級といった社会的不平等の構造的根拠を説明することの難しさにつながるという批判もある。

こうした批判を受けて、ポスト構造主義は「ニュー・マテリアリズム」(物質のエージェンシーを再評価する哲学的潮流)や「オブジェクト指向存在論」などの新しい思想潮流と対話しながら進化してきた。また交差性(インターセクショナリティ)の議論は、権力と差異の複雑な絡み合いを分析するためにポスト構造主義の道具を批判的に継承している。言語・記号・権力の分析ツールとしてのポスト構造主義の遺産は、簡単に乗り越えられるものではない。

ポスト構造主義は差異と反復が示す同一性批判と深く結びついており、パノプティコンに代表されるフーコーの権力論もその一翼を担う。身体の政治というテーマは、ポスト構造主義が言語論的転回後に物質性や具体的な身体へと回帰する試みを示す重要な概念である。

概念ネットワーク

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この概念を扱う本(8冊)

野生の思考
野生の思考

クロード・レヴィ=ストロース

90%

「野蛮な思考」が劣っているのではなく異なる論理を持つという構造主義的分析

一般言語学講義
一般言語学講義

フェルディナン・ド・ソシュール

90%

ソシュールの言語学が構造主義の方法論的モデルとなり、人類学・文学批評へ波及した

悲しき熱帯
悲しき熱帯

クロード・レヴィ=ストロース

90%

構造主義人類学の方法論をフィールドワーク体験と結びつけた実践

構造と力
構造と力

浅田彰

85%

浅田は構造主義から出発しつつ、ポスト構造主義の動的・逃走的思考を日本に紹介した。

自殺論
自殺論

エミール・デュルケーム

80%

個人的行為の社会的原因を暴くことで社会学の方法論的有効性を示した

計算機プログラムの構造と解釈
計算機プログラムの構造と解釈

ハロルド・エイブルソン、ジェラルド・サスマン

80%

手続き型・オブジェクト指向・関数型という多元的プログラミングパラダイムの探求

監獄の誕生
監獄の誕生

ミシェル・フーコー

50%

フーコーは権力と知の関係を系譜学的に分析するポスト構造主義の中心的実践として、近代の刑罰制度を解剖した

千のプラトー
千のプラトー

ジル・ドゥルーズ

50%

ドゥルーズ&ガタリはリゾームや地層という概念でポスト構造主義の中心的テキストを構成し、ツリー型思考への根本的な批判を展開した