知脈

野生の思考

クロード・レヴィ=ストロース

思考の民主主義 — レヴィ=ストロースが解体した文明と野蛮の境界

クロード・レヴィ=ストロースが1962年に発表した『野生の思考(La Pensée sauvage)』は、いわゆる「原始的」社会の思考が、西洋近代科学の思考と本質的に異なるのではなく、異なる素材と目的に向けられた同等に体系的な知的実践であることを論じた著作だ。「野生の思考」とは「未開人の思考」ではなく「栽培されていない状態の思考」——あらゆる人間に潜在する自然なままの思考力だ。

本書はサルトルの実存主義的歴史哲学への批判として書かれた側面ももつ。サルトルが「歴史を作る主体」としての自由な個人を前面に出したのに対し、レヴィ=ストロースは人間を構造の産物として、歴史を構造の変容として捉える。この論争は1960年代のフランス知識人世界を席巻した。

ブリコラージュという概念

レヴィ=ストロースが提示する核心的概念が「ブリコラージュ(bricolage)」だ。ブリコラージュとは、専門の道具ではなく手元にある材料と道具を組み合わせて新しいものを作る実践だ。これに対し近代科学はあらかじめ目的に合わせた素材と道具を設計・製造して使う「工学(engineering)」的アプローチをとる。

ブリコラージュという概念は神話的思考の性質を捉える。神話はランダムな素材——動植物・天象・社会関係・生活体験——を巧みに組み合わせて世界についての「総体的な」理解を生み出す。この思考は科学より「劣った」のではなく、異なる目的に向けられた同等に有効な知的実践だ。

コンクリート性の科学

野生の思考が追求するのは「具体的なものの科学(la science du concret)」だ。動物・植物・土地・季節のきめ細かい観察と分類に基づく知識は、分析的カテゴリーを用いた科学的抽象化とは異なるが、同等に体系的で精密だ。アマゾンの先住民が何百種もの植物の薬効と使い方を知っていることは、この知識体系の豊かさを示す。

伝統的知識の体系は現代では「民族植物学」「民族医学」として研究されている。先住民の植物知識から新薬が発見される事例が示すように、野生の思考が積み重ねた知識は科学的に有効な認識を含む。問題は内容ではなく認識論的枠組みだ。

トーテミズムの再解釈

本書の前作『トーテミズムの今日』と接続しながら、レヴィ=ストロースはトーテミズム——特定の動物や植物と人間集団の特別な関係——を新しく解釈する。動物は「食べるためのもの」ではなく「考えるためのもの(good to think)」だという有名な定式が示すように、トーテムは分類の道具だ。

トーテミズムの論理は「熊族と鷹族が異なるのは、熊と鷹が異なるように」という形式をとる。自然の差異を使って社会の差異を表現するという操作は、ブリコラージュとしての神話的思考の典型例だ。

歴史に対する構造

レヴィ=ストロースのサルトル批判の核心は「歴史は人間の自由の産物ではなく構造の変容だ」という主張だ。「歴史を作る主体」という観念は西洋的・近代的な神話であり、実際には無意識の構造的規則性が歴史を動かしている。個人の意図ではなく無意識の構造こそが人類学の対象だ。

構造と歴史の関係は1960年代以降の人文社会科学の核心的問いとなった。ミシェル・フーコーの知の考古学、ピエール・ブルデューのハビトゥス論は、レヴィ=ストロースが開いたこの問いの延長線上にある。

人間科学の再編成

レヴィ=ストロースの影響は人類学を超えて広がった。文学批評・記号論・言語学・精神分析・歴史学が構造主義の方法論を取り入れ、1960-70年代のフランス人文科学は「構造主義の時代」を経験した。悲しき熱帯の自伝的告白と『野生の思考』の哲学的体系化は、レヴィ=ストロース構造人類学の二つの顔を示す。ともに、人間が自分自身を理解しようとするとき、他者との出会いがいかに不可欠であるかを語っている。

ブリコラージュという創造の普遍性

ブリコラージュという概念は芸術論・デザイン論・テクノロジー論で広く応用されている。手元の素材を組み合わせて新しいものを生み出すという実践は、神話的思考だけでなく現代のハッカー文化・DIY運動・アジャイル開発にも見出せる。完璧な素材を待つのではなく、今あるものを最大限に活用する創造的実践だ。

創造とブリコラージュの洞察は、工学的設計と神話的思考の境界を曖昧にする。スタートアップが市場にある要素を組み合わせて新サービスを生み出すことも、ブリコラージュの論理に近い。悲しき熱帯でレヴィ=ストロースが南米先住民に見出した知的豊かさは、近代の「進歩」という価値観への挑戦として、科学技術優位の時代において常に新鮮な問いを投げかける。

キー概念(4件)

手元の材料を組み合わせる「野生の思考」の方法としてのブリコラージュ概念

神話が感性的具体物の二項対立を媒介として社会的矛盾を思考する論理

「野蛮な思考」が劣っているのではなく異なる論理を持つという構造主義的分析

文化相対主義の実践—すべての文化は平等に「良く」機能する論理を持つ

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