知脈
千のプラトー

千のプラトー

ジル・ドゥルーズ

ツリーを壊し、リゾームで思考する

「私たちの思考は、なぜいつも木の構造(ツリー)になるのか」——ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリは、この問いから出発する。根がひとつにまとまり、幹から枝が分かれ、細かく階層化されていくツリー構造は、西洋思想・言語・国家・家族・文学——あらゆるところに潜む。

[リゾーム](/concepts/リゾーム)(根茎)は、その対概念だ。タコやジャガイモの地下茎のように、中心がなく、どこからでも成長でき、切断されても別の場所でつながる。ツリーへの根本的な対抗として提示される。

キーコンセプト 1: リゾームとツリーの対立

[リゾーム](/concepts/リゾーム)の特徴は6つの原理で示される。接続性(任意の点が任意の点と繋がれる)、異質性(性質の異なるものが繋がる)、多様体(全体が変化しても部分は変わる)、脱意味作用的切断(切断されても別のところで繋がる)、地図製作(固定した地図でなく、常に作られる地図)、転写不可能性(根幹からのコピーに還元できない)。

ツリー思考が「一から多への分岐」であるのに対し、リゾームは「多から多への網状展開」だ。家系図、組織図、分類システム——これらはすべてツリー構造だ。インターネット、都市、文化的感染——これらはリゾーム的だ。

現代のネットワーク科学(スケールフリーネットワーク等)との接続は直接的だ。ドゥルーズ=ガタリの直観は、後の複雑系理論が数学的に確認することになる。

キーコンセプト 2: 脱領土化と再領土化

[脱領土化と再領土化](/concepts/脱領土化と再領土化)は、本書で最も繰り返される概念対だ。「領土」とは、ある秩序・コード・意味体系が安定した配置を持つ状態。「脱領土化」はその秩序が解体・流動化すること。「再領土化」は別の秩序が形成されること。

資本主義は究極の脱領土化装置だ——あらゆる価値を流動的な交換価値(貨幣)に還元し、伝統・宗教・共同体などの固定的秩序を解体する。しかし同時に再領土化も行う——解体した秩序を市場という別の秩序に再編成する。

この分析は後の「グローバリゼーション批判」の先駆けとなった。しかしドゥルーズ=ガタリは脱領土化を肯定的に捉える側面もある——固定した意味体系を流動化し、新しい可能性を開くプロセスとして。

キーコンセプト 3: 強度と器官なき身体

[強度](/concepts/強度)は、本書を貫く概念だ。「何かがそれ自身であること」よりも、「差異そのもの」を捉えるための概念として機能する。熱の強度、欲望の強度、感情の強度——これらは測定可能な量ではなく、「何かを起動させる差異の力」だ。

[器官なき身体](/concepts/器官なき身体)(BwO)は、アルトーから借りた概念を転用したものだ。機能によって「器官」として組織化された身体への対抗として、固定した機能配分を持たない「強度の場」としての身体。欲望の生産性を解放するための概念装置だ。

キーコンセプト 4: 配置——世界を分析する基本概念

[配置](/concepts/配置)(agencement)は、本書で社会・言語・機械・身体を分析する基本単位だ。要素の集合でも、構造でもなく、異質な要素が「一時的に安定した関係を保つ集合体」として機能する。

配置は常に二つの軸を持つ——水平軸(異質な要素の接続)と垂直軸(領土化/脱領土化の運動)。この二軸のダイナミクスで、政治体制・音楽・生態系・経済を横断的に分析できる。

難解さと豊かさの間で

本書は意図的に「読みにくく」書かれている。線状の論理展開を意図的に避け、プラトー(高原)から高原へと移動しながら、読者を「リゾーム的な思考」の経験へと誘う。

構造と力が日本に輸入された際の知的興奮と同様、本書は当時の人文・社会科学の語彙を根底から揺るがした。ドゥルーズ=ガタリは「何を言っているのか」より「どう考えるか」を変えることを目的とした書物を書いた。本書はその最も野心的な達成だ。

現代の人工知能研究者、ネットワーク科学者、デジタル文化論者がドゥルーズ=ガタリに立ち返るのは、彼らの概念が「ポスト・デジタル時代」の現象を記述する力を持つからだ。インターネット、SNS、ミーム——これらはすべてリゾーム的に増殖する。本書の言語は難解だが、その直観は現代世界を理解する鋭利な道具だ。監獄の誕生(フーコー)と並んで、20世紀後半フランス哲学の双璧として、本書は知的誠実さを問われる読者に挑戦し続ける。読者の忍耐が報われる本だ。

キー概念(6件)

ドゥルーズ=ガタリはリゾームをツリー型(階層的・二分法的)思考への対抗概念として提唱した。

ドゥルーズ=ガタリは資本主義・芸術・政治を脱領土化/再領土化の運動として分析した。

千のプラトーでは強度が欲望・身体・感情などを横断して論じられる基礎概念となる。

ドゥルーズ=ガタリは器官なき身体を欲望の生産性を解放する概念として提唱した。

千のプラトーでは配置が社会・言語・身体などあらゆる現象を分析する基本概念として機能する。

ドゥルーズ&ガタリはリゾームや地層という概念でポスト構造主義の中心的テキストを構成し、ツリー型思考への根本的な批判を展開した

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