知脈

ダーウィン的アルゴリズム

Darwinian algorithm普遍的ダーウィン主義universal Darwinism

ダーウィン的アルゴリズムとは、変異・選択・遺伝(複製)という三つの条件さえ揃えば、対象がDNAであろうと観念であろうと進化が起きるという、進化を基質から切り離した抽象的な原理である。「普遍的ダーウィン主義」とも呼ばれ、生物進化の理論を離れて、免疫系や文化、人工システムにまで適用範囲を広げる根拠として参照されてきた。この抽象化を哲学的に定式化したのがダニエル・デネットであり、リチャード・ドーキンスの遺伝子中心主義とあわせて、進化を「特定の材料の物語」から「ある条件が揃えば必然的に起きる過程」へと読み替える視点を与えた。

三条件への抽象化

ダーウィンが『種の起源』で示したのは、生物という具体的な対象についての理論だった。だが彼の論証をよく見ると、そこで働いている論理は「変異が存在し、そのうち一部が選ばれ、選ばれた形質が次の世代に伝わる」という三つの条件だけであり、対象が生物である必然性はどこにもない。この抽象化を早い段階で定式化したのが心理学者ドナルド・キャンベルで、1960年代に知識や創造性の獲得を「盲目的変異と選択的保持」(blind variation and selective retention)と呼び、生物進化とまったく同じ論理が思考のプロセスにも働いていると論じた。この三条件は変異(Variation)・選択(Selection)・保持(Retention)の頭文字から「VSR」と呼ばれ、後の普遍的ダーウィン主義の骨格になっていく。

デネットの「アルゴリズムとしての自然選択」

この抽象化を哲学の言葉で徹底したのがダニエル・デネットである。1995年の『ダーウィンの危険な思想』で彼は、自然選択を特定の物質に縛られない「アルゴリズム」だと述べた。アルゴリズムとは、それを実行する媒体が紙であろうとシリコンであろうと、正しい手順さえ踏めば同じ結果に至る手続きを指す。自然選択も同様に、変異・選択・遺伝という手順さえ満たされれば、炭素でできた生物でも記号でできた観念でも、同じように「設計者なき最適化」が進行しうる。デネットはこの思想を、触れたものをすべて作り変えていく「万能酸」にたとえ、生物学の外へ染み出すことこそがこの思想の本質だとみなした。

ミームという試験例

この論理を最も大胆に文化の領域へ持ち込んだのがドーキンスの「ミーム」概念であり、それを一冊の理論として展開したのがスーザン・ブラックモアのミーム・マシンである。ブラックモアは、ミームが単なる比喩ではなく「本物の」複製子であることを示すために、ダーウィン的アルゴリズムの三条件を文化の過程にそのまま当てはめる。模倣によって観念に変異が生じ、記憶や言語による選択を経て、一部だけが人から人へと複製されていく――この過程が三条件を満たす限り、そこには生物進化と原理的に同じ意味での「進化」が起きている、という主張である。同種の発想は免疫系の抗体産生(クローン選択説)や計算機科学の遺伝的アルゴリズムにも見られ、いずれも同じ抽象的な論理の異なる実装とみなされている。

どこまで「同じ」なのか

もっとも、この普遍主義がどこまで文字通り成り立つかは、生物学の哲学者の間で今も論争が続いている。DNAの複製には高い忠実度と離散的な単位という明確な基盤があるのに対し、観念の複製や免疫細胞の増殖は変異と保持の仕組みがはるかに緩く、何をもって「一つの単位」と数えるかさえ曖昧なことが多い。批判者は、ミームや文化進化への適用は厳密なアルゴリズムというより有用な比喩にとどまると指摘し、擁護者は、忠実度が低くても選択が働く論理そのものは損なわれないと反論する。ダーウィン的アルゴリズムは、この線引きの当否を絶えず試され続けている概念である。

なぜ今、ダーウィン的アルゴリズムなのか

この抽象化がもたらした最大の効果は、進化を生物学の一エピソードから、条件さえ揃えばどこでも作動しうる汎用の論理へと格上げしたことにある。機械学習における進化的計算、文化や制度の変化を扱う進化経済学、創造性やアイデアの淘汰をめぐる議論まで、「変異・選択・遺伝」という三条件は今も新しい対象を探し続けている。生物か非生物か、意識があるかないかを問わず「その条件が揃っているかどうか」だけを問うこの視点は、設計者なしに複雑な秩序が生まれる過程を理解するための、もっとも汎用性の高い道具のひとつであり続けている。

この概念を扱う本

概念ネットワーク

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この概念を扱う本(1冊)

ミーム・マシン
ミーム・マシン

スーザン・ブラックモア

75%

ブラックモアは文化進化がダーウィン的アルゴリズムの正当な適用例であることを論証するために、このフレームワークを用いる。ミームが「本物の」複製子であることの根拠として機能する。