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日本的意思決定

稟議制合議制ringi system

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この概念を本でたどる

空気の研究』で「日本的意思決定」を読む

山本七平

山本は、空気支配が日本的意思決定システムと構造的に連動していることを示す。「誰が決めたのかわからない決定」が生まれる根拠として、空気が事実上の意思決定主体となるメカニズムを解説する。

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日本的意思決定とは、日本の組織にしばしば見られる、集団的・根回し型の意思決定様式を指す。欧米型のようにトップに立つ個人が単独で決断を下すのではなく、構成員のあいだで非公式な合意形成が積み重ねられ、その結果として一つの方向性が「気づけば」定まっているという過程そのものが、実質的な決定行為とみなされる。評論家・山本七平は『空気の研究』において、この意思決定様式が日本社会に特有の「空気」の支配と構造的に結びついていることを指摘し、戦後日本を読み解く鍵概念のひとつとして提示した。

根回しと稟議

日本的意思決定を制度として支えてきたとされるのが、根回しと稟議である。根回しはもともと庭木を移植する前に根を切り整えておく造園の作業を指す語だったとされ、そこから転じて、正式な会議に先立って関係者へ個別に意向を確認し、あらかじめ異論を解消しておく非公式な調整を意味するようになった。稟議は下位者が起案した文書を関係部署へ順に回覧し、承認の印を積み重ねていく仕組みである。いずれの場合も、公式の会議や決裁の場は、すでに実質的に固まった結論を追認する儀式に近い機能しか果たさないことが多いと指摘される。会議の場で異論を唱えることは同調圧力に逆らう行為となり、決定の実質は会議室そのものよりも、その手前で交わされる非公式なやりとりの中にあるといえる。

「空気」という決定主体

山本が『空気の研究』で示したのは、この合意形成の過程がしばしば個々人の判断を超えた「空気」によって導かれるという構造である。会議に集まった一人ひとりが必ずしも同じ結論を望んでいなくても、その場を支配する空気に逆らうことは心理的にきわめて困難になり、結果として空気そのものが事実上の意思決定主体になる。そこで例に挙げられる戦艦大和の出撃決定のように、合理的な分析よりもその場の空気が結論を導いたとされる事例は、空気による意思決定の極端な形として繰り返し参照されてきた。この構造は、より広い現象である空気の支配の一断面でもあるとされる。

責任の所在という問題

この様式のもとでは、しばしば「誰が決めたのかわからない決定」と評される事態が生まれる。根回しの各段階に関わった誰もが「自分ひとりで決めたわけではない」と感じ、責任は組織全体、あるいは場の空気そのものへと拡散していく。これは責任の拡散と呼ばれる現象にほかならず、失敗が起きた際に誰も明確な説明責任を負わない構造を生むと指摘される。個人が組織の合意形成のなかに埋没していくという点で、組織と個人の関係を考えるうえでも示唆に富む事例だといえる。

集団思考との違い

日本的意思決定と部分的に重なる概念に、心理学者アービング・ジャニスが提唱した集団思考がある。集団思考が主に集団の同質性や結束の強さから生じる判断の歪みを問題にするのに対し、日本的意思決定はそれに加えて、場全体を覆う非人格的な力学としての「空気」を重視する点に特徴があるとされる。根回しと稟議という制度が、この空気の支配を日常の組織運営のなかに組み込んできたと考えるなら、日本的意思決定は単なる慣習ではなく、責任の所在を曖昧にしたまま合意を形成し続けるための、精緻な社会的装置として機能してきたとも見えてくる。

この概念を扱う本

この概念を扱う本(1冊)

空気の研究
空気の研究

山本七平

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山本は、空気支配が日本的意思決定システムと構造的に連動していることを示す。「誰が決めたのかわからない決定」が生まれる根拠として、空気が事実上の意思決定主体となるメカニズムを解説する。