知脈

家畜化可能な動物

大型哺乳類の家畜化domesticable animals

なぜ一部の動物だけが家畜化されたのか

世界に哺乳類は数千種いる。しかし人類が家畜化に成功した大型哺乳類はわずか14種に限られる。牛・馬・豚・羊・山羊・ラクダ(フタコブ・ヒトコブ)・リャマ・アルパカ・ロバ・ヤク・アジアスイギュウ・バリスイギュウ・バンテン・ガウルだ。なぜグレートアナコンダやコモドオオトカゲや縞馬は家畜化されなかったのか。ジャレド・ダイアモンドが銃・病原菌・鉄で示した答えは、種の特性にある。

家畜化可能な動物の定義

家畜化可能な動物とは、人間との共存・繁殖管理・労働利用に適した特性を持つ動物だ。ダイアモンドはアンナ・カレーニナの原則(「幸せな家族はどれも似ているが、不幸な家族はそれぞれ独自の不幸を抱えている」)になぞらえて、「家畜化可能な動物は全て似ているが、家畜化不可能な動物はそれぞれ独自の欠点を持つ」と論じる。

家畜化に必要な条件は六つある。

食性: 植物食・雑食が基本。肉食動物は食物連鎖の非効率性のために大量の餌が必要で不経済だ。

成長速度: 経済的になるまでの成長が早いこと。ゾウは繁殖まで15年かかり採算が合わない。

囚われの中での繁殖: 縞馬・ナマケグマ・チーターは野生では繁殖するが、囚われの中では繁殖できないか困難だ。

気性: 人間に対して攻撃的でないこと。アフリカスイギュウは気性が荒く、同じウシ科でも家畜化不可能だった。

恐慌を起こさない性質: 捕食者を見ても逃げ惑わないこと。ガゼルは広大なスペースで群れを作って逃げ、囲いに収容できない。

社会的ヒエラルキー: 群れのリーダーに従う本能を持つ動物は、人間をリーダーとして受け入れやすい。

事例分析:アフリカに大型哺乳類がいたのに

アフリカは大型哺乳類の宝庫だ。ゾウ・カバ・サイ・キリン・縞馬・バッファロー・多数のアンテロープ。しかしユーラシアの肥沃な三日月地帯からやってきた農耕民はアフリカの大型哺乳類をほとんど家畜化できなかった。なぜか。

縞馬は見た目は馬に似ているが、人間への攻撃性が極めて高い。世界中の動物園での縞馬による咬傷事故はライオンによるそれより多い。成長した縞馬を背中に乗せることはほぼ不可能だ。カバは最も危険な動物の一つであり、縄張りへの侵入者を猛然と攻撃する。アフリカスイギュウは同じウシ科のウシと異なり、極めて攻撃的だ。

これに対してユーラシアの野生馬(ターパン)・野生牛(オーロックス)・野生豚・野生羊・野生山羊は、上記の条件を満たしていた。これは地理的な偶然だ。ユーラシア人が「賢くて動物を家畜化できた」のではなく、ユーラシアに「家畜化可能な動物が多く生息していた」という環境の違いだ。

対立概念:動物への人間の支配という神話

「人間は動物を支配・制御できる」という一般的なイメージは、実は特定の種への特定の条件下での成功例に過ぎない。大多数の野生動物を家畜化しようとする試みは歴史的に失敗してきた。

ロシアのドミトリ・ベリャーエフが行ったキツネの家畜化実験は、わずか数十世代の人工選択で野生キツネを犬のように人間になつく動物に変えることができると示した。しかしこれは意図的な繁殖選択の管理下での実験だ。野生の動物集団から「家畜化可能な」変異体が自然発生的に一定数存在することが前提となる。

応用

感染症と免疫との関係は決定的だ。家畜化された動物と長期間共存するユーラシア人は、家畜の病原体に対する免疫を発達させた。後に免疫を持つ集団と持たない集団が接触したとき、病原菌は「生物兵器」として機能した。

専門化と階層社会との接続では、家畜化が余剰食料を生み出し、非農業人口(職人・戦士・聖職者・行政官)を養える社会を実現した。究極の原理近接の原理の分析枠組みでは、「ユーラシアに家畜化可能な動物が多かった」は究極要因であり、それが軍事力・免疫力・技術力という近接的優位を生んだ。

概念ネットワーク

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この概念を扱う本(1冊)

銃・病原菌・鉄――1万3000年にわたる人類史の謎

ユーラシア大陸には馬・牛・豚など家畜化可能な大型哺乳類が多く存在したが、他大陸では少なかったことが文明発展の差につながったと論じている。