欺瞞、欲望、小説
ルネ・ジラール
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概要
文学作品を通じて模倣欲望の理論を展開。模倣的欲望、スケープゴート、他者の視点から見る、欲望の三角形、媒介者を分析する。
キー概念(12件)
本書の中心理論。ジラールはセルバンテス、スタンダール、フローベール、プルースト、ドストエフスキーの作品を横断的に分析し、偉大な小説家たちは一様に登場人物の欲望が模倣的構造を持つことを描いていると論じる。
ジラールが文学分析の分析装置として提示する基本図式。ドン・キホーテがアマディス・デ・ガウラを媒介として騎士道精神を模倣する例を出発点に、あらゆる欲望の物語を三角形として読み解く。
書名「欺瞞、欲望、小説」の「欺瞞」にあたる概念。偉大な小説家はこの嘘を暴露し、欲望の模倣的本質を明かす「小説的真実」を描くとジラールは主張する。凡庸な作家はロマンティックの嘘を強化するだけである。
ジラールは媒介者を「外的媒介者(主体と社会的・時空間的距離が大きい)」と「内的媒介者(主体と同じ世界に存在し、競合が生じる)」に分け、近代文学が内的媒介を中心に展開していると分析する。
ジラールはドン・キホーテ、ジュリアン・ソレル、エマ・ボヴァリー、プルースト的語り手などの「小説的転換」を分析し、死の床あるいは失意の底で主人公が模倣欲望の虚偽に気づく瞬間を「小説的真実」の開示と見なす。
スタンダール、フローベール、プルースト、ドストエフスキーの作品を分析する際の鍵概念。スノビズム、嫉妬、ルサンチマンはすべて内的媒介の産物であり、近代社会の平等化とともに内的媒介が支配的になったとジラールは論じる。
ジラールはドン・キホーテのアマディス崇拝から近代のスノビズムまで、模倣的欲望の深層には対象への欲求ではなく媒介者の「存在」への憧れがあると論じる。形而上的欲望は満たされるほど空虚になるという逆説を持つ。
ドン・キホーテとアマディス・デ・ガウラの関係が典型例。騎士の時代はすでに過ぎ去っており、媒介者は手の届かない理想として機能する。ジラールはこれを近代小説以前の英雄的模倣と対比させる。
プルーストの『失われた時を求めて』分析の中心概念。ゲルマント家への憧れや社交界への接近欲求はすべて内的媒介による模倣的欲望の産物であるとジラールは読み解き、スノビズムを近代社会における内的媒介の典型例として位置づける。
内的媒介の必然的帰結としてジラールが論じる。フローベールの『赤と黒』やドストエフスキーの諸作品において、人物たちは対象を欲するよりも相手を打ち負かすことそのものを欲するようになる逆説的な欲望の転倒を描く。
ドストエフスキーの「地下室の手記」の語り手分析において核心的に登場する。内的媒介において媒介者への崇拝と憎悪が共存する両義的感情がルサンチマンであり、ジラールはこれを内的媒介が激化した状態の産物として描く。
ジラールが分析する偉大な小説はすべてこの転換で終わるとされる。ドン・キホーテの臨終の悟り、プルーストの語り手の芸術家としての覚醒がその典型。この転換なしに小説は「ロマンティックの嘘」を再生産するだけに終わると論じられる。