表現論
CONCEPT → BOOK
この概念を本でたどる
『数学の大統一に挑む』で「表現論」を読む
エドワード・フレンケル
ラングランズ・プログラムを理解する上で不可欠な道具として紹介される。ガロア群の表現と保型形式の対応という形で、数学の異分野が結びつく仕組みの核心に位置する。
この本とのつながりを見る表現論とは、群や環、代数といった抽象的な数学的構造を、行列やベクトル空間上の線形変換として「見える化」し研究する分野である。抽象的な演算規則そのものを直接扱う代わりに、具体的に計算できる線形代数の言葉に翻訳することで、構造の奥に潜む対称性を浮かび上がらせることができる。この「翻訳」の力ゆえに表現論は数学の一分野にとどまらず、物理学から数論、幾何学までを貫く共通言語として機能してきた。
群を行列に翻訳する
表現論の出発点は19世紀末、リヒャルト・デデキントがゲオルク・フロベニウスに宛てた一通の手紙にあるとされる。デデキントは、群の元を変数とする「群行列式」という多項式が可換な群では単純な一次式の積に分解することに気づき、非可換な場合はどうなるのかをフロベニウスに問うた。この問いに答える過程でフロベニウスは「指標」という道具を編み出し、群行列式が既約表現の次元に応じた重複度で分解することを示した。1896年前後のこの仕事が、群の表現論の実質的な誕生とされる。弟子のイサイ・シューアはさらに理論を整備し、既約表現の間の準同型は零写像か同型写像のいずれかしかないという「シューアの補題」など、今も理論の骨格をなす道具を残した。
有限から連続へ、量子力学へ
フロベニウスやシューアが扱ったのは有限群だったが、20世紀に入るとヘルマン・ワイルが回転群のような連続的な「リー群」にまで表現論を拡張した。この拡張を後押ししたのは誕生したばかりの量子力学である。量子力学では粒子の状態はベクトル空間の元として、対称性は群の作用として記述される。角運動量やスピンといった物理量は、対称性の群がどのように表現されるかという表現論の言葉そのもので理解できる。抽象的な代数の理論が、原子の中の電子の振る舞いを説明する具体的な道具になったのである。
ラングランズ・プログラムという結び目
20世紀後半、表現論はさらに大きな役割を担うことになる。数論の世界では方程式の解の対称性を記述するガロア群の表現が、また別の文脈では高い対称性を持つ関数の族である保型形式が、それぞれ独立に研究されてきた。1967年、ロバート・ラングランズはこの二つが表現論を介して深く対応しているはずだという壮大な予想群を書簡の形で提示した。これがラングランズ・プログラムである。この対応の威力を世に示したのが、アンドリュー・ワイルズによるフェルマーの最終定理の証明(1994年)で、楕円曲線に付随するガロア表現が保型形式に由来することを示すことで達成された。数学者エドワード・フレンケルの著書数学の大統一に挑むは、このガロア理論と保型形式を結ぶラングランズ・プログラムの核心に表現論を据え、一般読者に数論・幾何学・物理学が地続きであることを伝えようとする一冊である。
なぜ表現論なのか
数学の諸分野が別々の言語で語られているように見えても、その奥では同じ対称性が違う姿で現れているだけかもしれない。表現論はそうした直観に厳密な形を与える技法である。19世紀の群行列式をめぐる問いから、量子力学、そして数論の統一構想まで、表現論が一貫して担ってきたのは「異なる構造の間に潜む同じもの」を浮かび上がらせる仕事だった。抽象を手放さずに具体を得る、その両立の技法こそが、この分野が130年近くにわたり数学の中心であり続けてきた理由なのだろう。
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この概念を扱う本(1冊)
隣の概念から、別の本へ
知脈でいま「表現論」に結びついているのは『数学の大統一に挑む』の1冊です。 ただしこの本のなかで隣り合う概念をたどると、別の本へ出られます。